• 《第一話》
  • 《第二話》
  • 《第二話 A》

遠藤がこの食堂に通い詰めたのは、
単に担当になったからということだけではなかった。
豪華でも、おしゃれでもないけれど丁寧に作ってある料理。
毎日食べても飽きない味はもとより、主人の仕事に向かうひたむきな姿勢が、
以前の父と重なって見えて愛着を覚えた。

そんなある日、店主から悩みを打ち明けられた。
「店を、閉めた方がいいのかな・・」

何とかしなければ。と熱くなる。
と同時に、胸の内を明かされたことが素直に嬉しかった。

考えるより先に、つぶやいていた。
「新しいメニューに、挑戦してみませんか。」

それからは、無我夢中。
店主の想いを消してはならない。
新メニューの先に、店主の明るい未来があると信じて、打ち込んだ。
第二話へ続く>>

※このストーリーはフィクションです。登場人物、店舗の名称などは架空のものであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。

新メニューでの経営立て直しを決意した食堂旅籠庵と
それを全力で支える決意をした遠藤。
何度も何度も話し合いを重ね、準備を行うこと数ヶ月。
ついに旅籠庵の新しい丼が完成した。

その丼が将来、旅籠庵の看板メニューになることに期待し、
店主は、店の屋号から「ハタゴ丼」と名付けた。

その後、遠藤は県外の支店へ異動となり、
担当として旅籠庵の成長を見届けることは叶わず
この街から離れることとなったのだった。

それから月日は流れ、再びこの街に戻ることになった遠藤。
何よりも先に旅籠庵を訪れた。
「お久しぶりです」
十数年ぶりの突然の来店に店主と妻は驚く。
そして、遠藤は店内の光景に目を疑った。
あの頃、昼時ですら客が疎らだった旅籠庵は、今やこの街を代表する食堂となり、
昼も夜も食事時には常に満席。
休日には順番待ちの行列ができるほどの人気店になっていたのだ。(続く>>

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「歳、とったな」「ええ、親父さんも」
ただそれだけの言葉を交わし、店主は注文を聞かずに厨房へと入っていった。
しばらくして戻った店主は
「うちの、看板メニューになったぞ」
と、満面の笑みで遠藤にハタゴ丼を差し出した。

感激のあまり、年甲斐もなく丼を一気に平らげた遠藤。
「あの時のように写真、撮りませんか?今度は奥さんも一緒に。」
と、新しくなったハタゴ丼の看板の横で記念写真を撮ろうと提案した。

店主の妻の話によれば、来春、長男が大学を卒業し戻ってくるという。
店を手伝い、いずれは旅籠庵を継ぐことを希望しているとのことだ。
遠藤は昔の自分と店主の長男が重なり、様々な想いが込み上げ自然と涙が流れた。

これからも、地域の企業と共に活きていきたい。
改めて強くそう願う遠藤だった。

※このストーリーはフィクションです。登場人物、店舗の名称などは架空のものであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。

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